【君のことが好きとか嫌いとか】
「私、くるみちゃん大嫌いだから」
シャベルの手入れをしていた横でそんなことを言ってきた。頭の中で一瞬考えてまたシャベルに目を落とす。
「あたしも嫌いだよ、バーカ」
たったそれだけ。
あいつは何も言い返さないし、あたしもそれ以上何も言わないから静かだ。
ピカピカのシャベルを見る。
いつからだったか。このシャベルをとことん磨き始めたのは。
部屋の外は見たくない。そんなことをぼんやり思っていると、目が合った。
「……」
「何」
「くるみちゃん、何かないの?」
「何かってなんだよ」
また会話は途切れる。
2人は何もしないで下さいと言った後輩はまだ当分帰りそうにない。
朝から様子が変だったりーさんの看病だ。正直言うと早く治って貰いたい。
まあ、そんなことあたしじゃなくてもさっきから何か言いたげなこいつが1番よく解ってるだろう。
☆
磨くところがなくなったシャベルは所在なさげにこちらを見ているようだ。
別に嫌な訳じゃない。
気分は悪いだけ。いや、それが嫌なんだろう。認めたくないんだ。
「大体さ、くるみちゃんがあの時ーーー」
「あの時?ちょろちょろ五月蝿いのはどこの誰だっけ?」
「ホラ!そんなんだからみーくんに怒られちゃうんだよ。私達はもう大人しくしてろって」
「否定はしないけどな。先にりーさんのお粥ダメにしたのお前だから」
違うだろう。
そう思っても口は止まらない。意地になってる、そんなものとっくに解っているのに。
そしてこいつがまだ何か隠してることも。
でもそれだけか?
他にも何かあるようで本音が聞けない。
「くるみちゃんってば!」
「んあ!?な、なんだよ」
「くるみちゃん…さては妄想してたでしょ」
「してねーよ。で?用があるから呼んだんじゃないの?」
呼んだ理由なんて。
こいつにある訳ないってこと、考えればいいだけなのに。
結局あたしは頭が混乱したままなんだ。
☆
「用って言うか…その……」
「ハッキリしねーのな。どうしたんだよ」
ホント、どうしたんだよ。
「あ!そう、シャベルくん!!シャベルくん触りたいなーって」
「さっき磨いたばっかだからヤダ」
「私綺麗だよ!?」
「はいはい…なあ、お前さ。ちょっといい?」
「え?何」
そう言って手を取る。正しくは腕、だ。
やっぱり、か。
「なんで言わねーんだよ」
「だ、だって」
「あーもう!説教はあとだ、あと!手当てすっからじっとしてろ」
「うん、ねえ…くるみちゃん」
「げっ、湿布も包帯も在庫ねー」
あるにはある。ボロッボロだけども。でも、果たしてこれを使っていいのかは疑問だ。
だけど。
目の前で火傷を我慢しているバカがいるんなら答えは明白だ。
「ゴメンね、くるみちゃん」
「いーから。これ、さっきのりーさんのお粥の時だろ?我慢しすぎ」
「心配かけたくなかったんだもん」
「あたしのこと嫌いなんじゃなかったのかよ」
「あれは、エイプリルフールでッ!」
「エイプリルフールってwそんな時期じゃねーじゃん」
そんな時期なのー!!と言ってくる。
まあ、話半分に聞いておく。
陸上部仕込みで簡単な応急処置ならよくやっていた。
右腕に巻かれた自身の腕は見ないフリをしながら。
「ありがと、ね。くるみちゃん。大好き」
「コロコロとなんなんだよ」
「もうエイプリルフールは私の中で終わったからね!」
「なんだよ、それ」
「くるみちゃんは?エイプリルフールとかそういうの関係なしでさ」
「あのなあ、嫌いな訳ねーだろ」
「え?何??聞こえない」
「嫌いじゃねーよ」
「聞こえなーい」
「おい、やめろ。無限ループじゃねーかよ」
久しぶりに笑った気がする。
ふと見るとあたしに笑顔を向けて来る。なんだか照れ臭くてつい顔を背ける。
「ちょっとくるみちゃん!無視しないでぇ」
「無視っつーか…なんでそんなさわやか笑顔なんだよ」
「えー!くるみちゃんも笑おうよ、もっと」
「笑ってる笑ってる」
「あ、くすぐれば今よりきっと」
「やったらどうなるか解ってんだろ」
「むう」
「それより、あんま腕動かすなよ」
そう言い、こいつの帽子の上からポンポンと撫でてやった。
☆
それから。
あたし達の様子を見に一旦後輩が顔を出した。
結論から言って、また同じことを言われた。
「目を離してる時に怪我してるとか由紀先輩…」
それは解る。だから見てないといけないのかも知れない。
「なあ、お見舞いもダメか?」
気付いたら言ってた。大人しくしてるつもりだけど、後輩に言わせれば全くなってないと言う。ままならない。
「りーさん、寝ちゃったんですよ。それでも来ます?」
首を横に振る。流石に静かに寝かせてやりたい。
「でもお見舞いはしたいなぁ。みーくん、りーさんが調子いい時言って」
「お前な、いや…そりゃお見舞いはしたいけどさ」
後輩と別れて雑談に興じる。ま、なんやかんやあったけどこんな日も悪くない。
いつものあたしの日常。
そう考えればこいつのノリにも全力で乗っかるのもいいかも知れないなんて思えて来る不思議。
「あたし、由紀大嫌いだからな♪」
あとがき
恵飛須沢&丈槍。
四月馬鹿とかいうヤツ。
しかし、りーさんを全然出さなかった。
調子悪い時のりーさんって物凄いエロそうw